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薔薇色の人生 Ⅲ

はてなダイアリーで書ききれないことを書きます。スピリチュアルなど。よろしく。

灰色の街~妄想彼女2~

2016年9月、俺は別れ話を高美(こうみ)に切り出す為に初めて、スナック

「FUMI」を訪れた。

横田基地の米兵の常連客が多かった。

店の内装は50~60年代のアメリカと日本を足して2で割ったような雰囲気でジャズが似合っていた。

カウンターに男が一人、背広姿のサラリーマン風の男が目立ってウィスキーのロックのグラスを手にしていた。

俺も同じ物を頼んだ。

まだ、残暑が厳しい季節だった。

店のママは冬子さんが言ってたとうり老婆が金髪で店をひとりで切り盛りしているようだった。

若い米兵と二人でひそひそ話をしてクスクス笑っていた。

想像以上に実年齢より若いファッションをしていたので驚いた。

壁には富士山の油絵が飾ってあった。

飲み物をコースターの上に置かれた。

孫はママ曰く「ガスステーション」の店員らしい。

普通にガソリンスタンドっていえと俺は舌打ちしたい気分になった。

ママやウェイターとウェイトレスのそんな話を聞いていたら、一人の女がサラリーマン風の男の隣に座った。

若いOL風の女性でこの店に寄ったようだった。

女は男が気に入ったらしく同じウィスキーを頼みながら口説いていた。

俺は横目で二人をみながら、2杯目のロックのおかわりをした。

あいつ、遅いなー。

高美のことを待ちながら、どう切り出そうかと迷っているうちに隣の男女は

もう店を出て行ってしまった。

男には孤独な背中を感じた。

新たな出会いの始まりなのに嬉しくないのか。

「あんたも女を待ってるのかい」と不意にママにはなしかけられた。

若い米兵にはいい年なのに「フミちゃん」と呼ばれていたのですぐその辺を言及したくなったが、さすがに怒られそうな空気を醸し出していたのでそこには触れず、

「いや、逆。別れ話」とつい話してしまい、しまったと顔をしかめた。

フミちゃんと呼ばれてるママは「出会いもあれば別れもある。ここも流れ者のたまり場だよ。特にあんたみたいなね。」とにやりと笑みを浮かべて2杯目のグラスを俺の前に置いた。

俺は冬子(とうこ)さんが年を重ねたらこの人みたいになるんじゃないかとなんとなく思った。

高美がきた。

彼女は自然に俺の隣に座り、ジントニックを頼んだ。

年老いたママはROCKやヴィジュアル系の音楽に興味がないらしく高美のことを誰か知らないようだった。

高美はサングラスをしたままだった。

「ここ、貴方の趣味に合わなそうね」と一口呑みながらあたりを見回し、音楽を聴きながら言った。

「まぁな、そのほうが話しやすいから」と笑わずに俺は言った。

「場所、変えた方がよくない?」と高美。

「そうだな」と高美がジントニックを呑み終えるのをだまって待ちながら

近くのテーブルに移動した。

「で?話って何?」金髪の長い髪を赤いマニキュアの指でかき上げがら目をつむりながら聞かれた。

「お前、なんで俺がいるのに空広に浮気してんねん。順序違うやろ。もう寝たんか。あいつと」と重い口調で睨んで言った。

高美は無視して煙草に火をつけた。

「煙草を吸う女は嫌いや」と俺はそのまま睨み続けていた。

高美は吸いかけた煙草を灰皿に押しつけて火を消した。

「空広とはまだ寝てないわ」真っ赤な口紅で唇の端を上に曲げながら答えた。

「でも、貴方とはもう潮時ね。飽きちゃった。別れましょう」と先に言われ、

怒りのあまり殴りたくなったが、テーブルの下で右手を左手でなんとか抑えた。

「わかった。俺ももうお前とこのまま続けていくのは限界」と固く目と閉じながら言うのに精一杯だった。

高美はそんな俺をみて憮然として「最後の依頼があるんだけど、このアイドルを消してほしいの」と一枚の写真をテーブルの上に置いた。

写真をよくみたら、よく音楽TVでみかけるアイドルバンドのギター&ボーカルだった。

よくみたら割と可愛いかった。

年齢は21~2歳といったところか。

でもなんで高美が憎んでるのか。

「彼女、叩けば埃がたくさん出てくるの。面白いわよ。調べてみたら。

デビュー前まで男性関係派手だったけど、デビュー直前にすべての男と縁を切って今は独り身。でもジャンキーの噂がある。あんた達の仕事でしょ。」

高美の目が光った。

「わかった。最後くらいはお前の役にたつ仕事をするよ。」と俺はアイドルの写真を見ながら答えた。

「でも、なんでこいつのことを知ってるんや?とてもお前が正義感で動いてるとは思われへんな」と写真をみながら言った。

高美の性格は知り尽くしている。

空広の女だから邪魔なのだろうか。

「だって彼女は私よりも若くて肌もピチピチしてるでしょ。歌もギターも私よりも下手。TVだと口パクで当てふり。業界では評判悪いわよ」と高美。

俺はアイドルの目の奥を疑視しながら「過去にはやってる可能性は高そうやな。

一応、麻薬ルートの出どころは調べておく。これでこのアイドルは芸能界から干される。知りあいの記者に記事をリークさせる。これで満足だろ」

と俺は高美をみて言った。

「できれば命も消してほしいんだけど」と上目使いで更に言ってきた。

「もちろん、タダじゃないわ。このカードの口座からお金を引き出して貴方の口座に振り込む。」

俺は淋しくなった。

「もう会うことはないのか、俺達。それに命まで抹殺するほどのことはしてないだろ、この女は」と流石に不味いと思い殺害の依頼だけは断った。

ただでさえ、テロ関連のことで忙しいのにいちいち麻薬汚染のことまで関わってる暇はなかった。

しかし、建前は麻薬汚染をなくす目的で今の仕事を引き受けたのだからすべて断るわけにはいかない。

「もういい。2度と会うことはないから。さよなら」と残りのジントニックを俺の頭に思い切りかけて走って出て行ってしまった。

俺が振られたのにまるで悪者みたいな扱いをされるなんてなんて理不尽なんだ。

ウェイトレスにお手拭きをもってきてもらったが「いや、ええよ」と言って自分のハンカチで顔を拭いた。

「あんたも災難だねぇ、変な女に捕まっちゃって」とママは苦笑していた。

俺も苦笑して「今度は新しいまともな女を連れてくるよ」とだけ言って店をでた。

不思議と涙もでなかった。

悲しいはずなのに、虚しさのほうが残った。

後日、松田友美に会って事実を調べて記事をリークしたか、彼女の雑誌社にわざわざ出向いて行って確かめた。

「たしかに、妹さんは現役のジャンキーという噂がネット上に出回ってた。全部デマだけどね。バイなのは真実だった。あのアイドルの事務所とは揉めたくないから記事はたぶん出ないと思う。社長は一度過去にあの大手の事務所からでっかいスキャンダル記事もみ消された事があるからね。悔しいけど今回ばかりはね。訴訟事件起こされたら勝てる自信ないし。」とため息をついた。

「それより私の連載の方をこっちでは重宝されてるの、あのアイドルが引退したら、

たぶん記事になると思う。他を当たってくれない?」と、友美は申し訳なさそうに俺に謝った。

「いや、いいよ。歌姫の言うことを鵜呑みにした俺がアホやった。」

松田友美と俺は互いに微笑んだ。

高美と仕事場で会った時にその事実を告げたら、「そう、わかったわ。ありがとう。その事実だけで十分よ。」ともうそのアイドルのことは気にしていないようだった。

空広と何か進展があったのだろうか。

高美は最近上機嫌だ。